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2006年09月27日

●ウルルン滞在記(1)

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【特別晴れた夏の日には、ウソのような水色になるティスリット湖。必見!】

番組の放送からはや1ヶ月ちょっと。
モロッコの私は、ようやく先日番組を見る事ができました〜。
仕上がりの番組を見て思うのは、毎回ながら「こ、これだけ?!」(笑)
あれだけ苦労したコレは、1秒未満かぁ〜!などと思いつつも、そのキラリと光る1秒未満の積み重ねが、「面白かった」という記憶につながるわけなので、撮影中は気が抜けません。
今年も残す所ロケ1本! あやうくもう1本入ってしまうところでしたが、札ビラで頬をたたかれても管理人、番組制作と制作チームに愛のない仕事は引き受けないのでありました(笑)
50周年という機会もあってか、今年は特に撮影が多かったのかもしれませんが、何度訪ねても飽きない!(笑)奥深い魅力のあるモロッコの姿を一つでも多く見ていただけるのであれば、白髪を増やしたかいがあったというものです(笑)

さて、ウルルン滞在記。
実は放送直後からいろいろな方に聞かれていた、どうやらそこが一番気になっているらしい質問が一つ。
「タレントは本当にホームステイしているの?」という点について。

回答はズバリ、「しています」です。
これを聞くと一番納得していただけるのではないかと思いますが、ディレクターさんの解説して下さった理由がこちら。
「タレントはある程度仕事だから泣いてって頼んだら泣いてもらう事もできる。でも、素人さんはそうはいかない。いかに濃密な時間を過ごす事ができたかというところが番組の命で、そこがあってはじめて、最後に心から泣いてもらえるかもらえないかが決まっちゃうんですよね。」
なるほどー。確かにそういわれてみればそうですよね。

洋服が妙にきれいだったり、タレントさんがちっとも汚れていなかったりするのは、やはり「タレント」という商品である以上、あまり汚くなることもできない、というわけで、それなりにチームで気を使ってきれいにしているからなんですよ!

さて、今回の撮影は、タレントさんが来なくても、私がやりまっす!というくらい、自分自身が心から楽しんで臨めた撮影だったのですが、それにしても…大変でした(笑)
標高2300mの高地で、ノマドの生活にくっついて、日の出から日の入りまで歩きっぱなしだったのですから!
おまけに日の出前から働いているノマドだから、きっと夜は早いのだろう、なんて思っていたら、実際の生活は想像とは大きく異なって、なんと日の出前から、時には夜の11時、12時くらいまで、なんていう生活だったので参りました。

けれどもそんな撮影の準備のためのロケハン中、とある家族のおばあちゃんが残した一言が今でも忘れられません。

「ノマドは良くない。ノマドは良くないよ」

ノマドの家庭に生まれ育って60を越えて、山岳のモロッコ人的にはあともう少しでその厳しかった人生が終わろうという時に出る台詞が、これです。
彼女と出合ったのは、それはもう家畜に食べさせる草どころか、石ころしか転がっていないような山の上の未舗装道路の、さらに奥の道なき道の果てにあった小さな谷間。
水汲みに片道3時間かかるという場所に、息子夫婦と暮らしていた彼女のその言葉に、私は何も言い返せませんでした。

日本人的には、きっと遊牧民としての誇りの一つもあるのだろう、と思ったりしていたのですが、どの家庭でも、女性陣の口からついて出ていた言葉は、どちらかといったら苦しみだったかもしれません。
思い起こせばベルベル語。
実はベルベル語は、おいしい、とか、楽しいとか、うれしい、といった喜びの言葉の語彙はどちらかといえば貧困ならが、悲しみの表現の方は、とても表現が豊かだったりするのです。
それだけ厳しい日常と向き合っているという事なのでしょうね。

出演のはなさんも同じような事を言っていましたが、彼等がその厳しい自然の中で生き抜こうとする姿に、こちらはもう本当に安易に感想を述べたり、かなわないかもしれない口約束をすることさえ、本当にためらわれてしまった日々でした。

私にとっても、時にきまぐれなモロッコ人(ここが一番の問題!)を相手に、放送が決まっている1本のテレビ番組の撮影現場をコントロールするというのはかなりの重圧ですが、一見、雄大な自然の中でのびのびと生きているように見えるノマドでも、雨や風、寒さに暑さに襲われながら、たくさんの生き物の命を預かり、かつそれが家族の命にもつながっている日常というのは、私たちの生活からは想像できないくらい、たくさんの「重さ」を抱えている日常なんでしょうね。

どれがいいとも、誰がいいとも簡単には言えないし、自分は自分の人生としか向き合えない。
だからこそこれからも、ピンからキリまで、それこそ多種多様な人々が暮らしているこの国で、また違う角度から自分の日常を見直す機会に出合いたいなと思う私なのでした。

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