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2006年05月19日

●フェズからの帰り道

仕事で出かけたフェズからの帰り道。
同じコンパートメントになった女性はなんだかまるでそこが事務所であるかのように電話のしっぱなし。
「ああごめんなさい、30万、50万ディラハムの小切手を用意するのを忘れてしまったから、それぞれ○○銀行と××銀行ので用意しておいてちょうだい」
「このあいだの○○ヘクタールの土地の話だけど…」
「ヒヨコ3万2千羽を3万5千ディラハムで…」
ヒ、ヒヨコ?聞き間違いかしら?!とか、なんだかどうもスケールの大きな話だなぁ、どんな仕事をしている人なのかなぁと、あまりにもデカい話し声に、聞き入るともなしについ聞き入ってしまった道中。
それ以外には大して面白くもおかしくもない時間が夕暮れの風景とともにゆっくり過ぎて行き、炎天下に1日歩いてすっかり疲れていた私はいつの間にか眠ってしまいました。

ところが空もすっかり暗くなり、電車がラバトを過ぎた頃、突然電車がバチバチバチバチ…!!と、線路下のバラストを巻き上げ始めたではありませんか!
場所はゆっくりしたカーブ。周りには家々。
頭の中にはまだ昨年の尼崎線の電車脱線事故も新しい上に、自分自身の交通事故の記憶も重なって、一瞬凍り付く私と、窓際で電話中のゴージャスなマダム。まさか!

でも、体に負担になるようなブレーキ、なし。上下にガタつく様子も、なし。
ひとまず悲劇的な脱線はまぬがれるか?!でも、左カーブで、左側にあるコンパートメントだから、もしも倒れたらどこでどう自分を支え、衝撃から身を守るか?!…と、頭の中をかけめぐる大惨事。

そう思っていたら、列車はそのままゆっくりと止まり、事なきを得た事に、ついついお隣のマダムといっしょに喜びあってしまいました。
「夫に車で移動するのだけはやめてくれって言われて電車にしたのに。もうだめかと思ったわ!」
「私も同じですよ」
なんていう会話をしながら、車内放送も何もなく、ただひたすら止まり続ける電車の中で世間話がスタートしました。

どうやら彼女は、フェズでは有名な小麦やら鶏やらといった食品関連の供給にかかわる大きな会社の社長さん。起業したのではなく、雇われていた立場からたどりついた社長さんということで、モロッコにもそんな会社があるんだとすっかり感心してしまいました。
「300人の男性スタッフの上に女が立っているんだから大変よ」と言っていましたが、いやモロッコ。
なかなか女性もやりますね!
会話はそんなふうになごやかに進み、モロッコの経済や発展の問題について、モロッコで1番の産業である農業関連の会社の社長さんから話を伺えたとても貴重な機会になったので、これもまたケガの功名というところでしょうか。

ところがやはりどうしてこんなことになったのか気になる気持ちが出て来るのは万国共通。
「ちょっと様子を聞いて来るわね」といってコンパートメントを出て行った彼女が戻って来た時に教えてくれたのは、なんと停車原因が「自殺」だったということ。
「線路の上で仁王立ちになっていて、ブレーキも間に合わなかったんですって…」
それはそうでしょう。
ただ、自殺そのものがモロッコでは非常に珍しいので、モロッコの電車でそれに出くわしてしまったというのが驚きでした。

「モロッコでも、自殺する人いるんですね。日本では交通事故死する人よりも、自殺者の方が多いくらい、少なくない事なんですよ」というと、「確かにモロッコではそんなに多くないけれども、いるのよ。やっぱり。自殺する人も…」、と彼女。
大抵の事には「マーケイン・ムシュキル!」(ノー・プロブレム!)とかなんとかいいながら、時にはごまかし、時には無理を押し通したりして日々を過ごしている人の多い国ではありますが、いくら天国に行けないと言われても、やっぱりもう選択肢はそれしかない、と思い詰めてしまう人は、やはりどこの国にもいるものなんですね。

1時間以上たってようやく動きだしだ電車は、なんだかいつもよりもスピードを上げているように思えて、小心者の我ら2人乗客は、「生きてたどりつければそれでいいから!ゆっくりでいいから!」なんてつぶやき続ける始末。
急いでいる時には「遅い!」とか、「なんで遅れる!」なんて思いがちですから、人間なんて勝手なもんですよね。
ちなみにモロッコの国鉄ですが、創業以来、一度も死人が出るような列車事故を起こした事はない、という事ですので念のため。

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コメント

やっぱりこの会話はアラビア語でなされたんですよね。

■ルーシーさん
こういう種類の方だと、実に流暢なフランス語を話しますので、会話はフランス語の事の方が多いです。
特に彼女の場合、大声でいろいろな数字の話をしていたので、私がアラビア語もちょっとできると分かったら気まずいと思ったので、できるだけアラビア語はわからないフリをしていましたよ(笑)

かっこいいですね。「アラビア語は分からないフリ」
べつに、わたしの場合はフリをしなくても分からないので問題はありませんが。

値段交渉の時とかも、どうしてもそのものが欲しかったりすると、じとーっと現場に居残って、別の人が値段を聞くのを待つんです。
もちろん、アラビア語は知らないふり(笑)
はじめて行くお土産屋さんとかでもこれをやると、「いいよいいよ、ツーリストなんだから○○くらいにしとけば」みたいな会話、はじまっちゃうんですよね(笑)
聞こえてるぞ〜(笑)
値段交渉の技術の一つでした!

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