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トランス系音楽 グナワ・ズィクル・ジャジューカ
presented by NN

モ ロッコ音楽の中で一番名前が知られているのは グナワ だと思います。
多くのロックミュージシャン達がグナワにとりつかれては、グナワを自分達のルーツとし、グナワの要素を積極的に取り込んだり、グナワの演奏家達も海外で頻繁に演奏活動を行っています。
 かの有名なレッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリクスなんかもはまってしまった音楽なのです。編成はゲンブリという3弦楽器に鉄製のカスタネットのカルカベとハンド・クラッピング、そして声というシンプルなものです。ライタや笛などの楽器は一切使いません。ゲンブリはベース的な役割を思わせつつもその重厚で幻想的な音には魅惑のパワーがあります。

 モロッコには多くのイスラム神秘主義スーフィー教団があり、グナワ・グループもその一つと考えられます。
 グナワの場合スーダンをルーツに、西アフリカ地方から来た黒人奴隷者によってエッサウィラ地方で広められた音楽です。

  グナワの演奏は主にジン(悪霊)にとりつかれた人たちの精神的治療のために演奏されていました。人にとりつかれたとされる人達がグナワ集団の元に通っては、儀式を行います。
  グナワは数人の集団でゲンブリの伴奏にカルカベを打ち鳴らし、叫びに近い声を発します。
  ジンにはそれぞれ固有のリズムがあり、グナワ団体が打ち鳴らすリズムがジンの固有のリズムに調和した瞬間、患者はトランス状態に陥りジンとの対面そして和解が始まります。

 それからもう一つ、神とのコミュニケーションという手段もあります。トランス状態になることで神に近づけると信じているのです。
  黒人達のこのような思想は音楽や楽器を禁じられていたイスラムに大きな影響を与えたのです。神に近づくためなら何も拒まないという思想はやはりアフリカの精神ですね。


 現地モロッコで一般的にグナワを目にすることができるのが、マラケシュのジャマ・エル・フナ広場。
 観光客向けに演奏しているグナワ団体が毎日います。きっとなにげに見ていた人も多いことでしょう。
  グナワには地方によってのスタイルがあり、ジャマ・エル・フナ広場にいる人達はやはりマラケシュのグナワでを奏でているようです。
  グナワの特徴は主に黒人で構成され、アクロバット的パフォーマンスをしたり(子供連れの本格的なアクロバット団体が他にいますが、それはグナワじゃないです)頭をくるくる回しながら(帽子の先についている飾りを回しながら)演奏するところです。

立ち止まって見ていると必ずチップを請求されますから、快く渡しましょうね。(笑)

 それからエッサウィラでは毎年6月に「グナワ・フェスティバル」が開催されます。開催期間中は有名なグナワ奏者やその他いろんな国からアーティスト達が真昼間から明け方にかけて野外ライブをひっきりなしに行っている楽しいイベントです。
  エッサウィラの街が一気に活気づき、メディナのお店も宿も大繁盛です。一度は見る価値あるイベントなので、その時期にモロッコを旅行される方はぜひとも行ってみてください。

Hassan Hakmoun

 グナワ奏者の紹介ですが、最もメジャーなのは Hassan Hakmoun です。
  マラケシュ生まれで、現在はアメリカに移住し、活動しているシンガーソングライター。アルバム「Gift of Ginawa」ではフリー・ジャズのミュージシャンと共演した作品で、グナワにドン・チェリーによるトランペットやフルートとのコラボレーションに成功しています。
  トランス音楽として注目されていた伝統あるグナワをアメリカから発信し、先進的にグローバル化させた第一人者です。彼のCDは輸入盤を扱う大手レコードショップなら購入可能です。
 それから、エッサウィラのグナワ奏者として最も有名な Mahmoud Gania
  1950年にエッサウィラに生まれ、12歳の時にゲンブリを始めました。最初の録音は1975年で、現在までカセットは30本、CDは9枚リリースしています。モロッコ国内に留まらず、ヨーロッパにおいても頻繁に活動をしているグナワ奏者です。

 実は日本にも来日経験があるんです!(昨年2001年に広島で行われた「世界聖なる音楽祭・広島2001」にも出演していました)その他、Pharoah Sanders、Hamiel Dreg、Carlos Santana、Richard Horowitzなどのトップアーティスト達とも共演しているインターナショナルな人です。
 本物のグナワが聴きたい人はこちらをお薦めします。お薦めアルバムは「Gnawa Essaouira」。
  これだったら運よければオンラインショップで手にいれることができます。

(私事ですが、エッサウィラ・グナワフェスティバルでMahmoud Ganiaの演奏を生で聴くことができました。室内で行われたのですが、まさにトランス状態に陥る直前まで精神状態が高まる演奏でした。
実際トランス状態になってぶっ倒れている人もいました。うーん、体験する音楽とはすごいですね。ちなみにGaniaと一緒に写真まで撮ってしまい、ミーハーぶりも発揮してきました。(笑))

Mohamed Gania

 

Hamid El Gnawi

 お薦めの人がもう一人います。Mahmoud Ganiaほど本格的ではありませんが、Hamid El Gnawi というグループがいます。強いグナワ精神が宿った有能なアーティストHamid El Kasriを中心にシンセなどのプログラミングを手掛けるIssam Issamなどと組んだバンドです。彼らの音楽はいつも創造性に溢れる斬新なものばかり。

1999年にラバトで録音したファーストアルバム「Saha Koyo」ではグナワとジャズの融合に成功した革新的アルバムです。グルーヴ感やハウス・グナワとも言ってもいいような衝撃的な音を出してます。個人的にはHassan Hakmounよりもお薦め。


グナワのような儀礼は他のスーフィー団体などでも似たようなことが行われます。
 神に近づくためならば音楽も踊りも拒まないスーフィズムは神との一体感を体験するための修行の場としています。神の名を繰り返し唱えズィクル)、この反復による忘我(ファナー)の状態(トランス)が神に近づける手段だと信じています。
  この集会の様子は映画「シェルタリング・スカイ」で、チフスに病みかけている夫が悪夢を見る設定で描かれています。

 それから映画「グッバイ・モロッコ」ではスーフィーの世界に惹かれていく主役の母親が子ども二人を連れ、この集会に参加しているところが描かれ、スーフィーの世界にはまっていく母親を不安に見守る子供たちの心境なども描かれています。
イラン映画「キシュ島の物語」の第一話「ギリシャ船」でも妻の病を治療するために夫が妻をこの集会に参加させています。スーフィスト達は神への一体感を求め、頻繁に集会に参加するのです。
ズィクルを音楽として取り上げるには微妙ですが、グナワと非常に密接な関係であるのと同時に、様々な音がどのようにモロッコの人々に影響を及ぼしているのか、スーフィズムの特異として取り上げました。


Jajouka

北リフ山脈の小さな村 ジャジューカ の儀礼音楽がジャジューカです。4000年の歴史を持つアッタール族の遺産であり、国王やスルタンのもとで保護されていた音楽です。強烈なチャルメラ(ライタ)の音を呪文のように奏で、太鼓や竹笛も加わり同じフレーズを延々と反復します。これもトランス効果を生み、一度聴いたら耳に残りとりつかれてしまう魔術的音楽です。
  1968年にブライアン・ジョーンズが7時間以上かけて録音し、2年後にリリースしたアルバム「Brian Jones presents the pipes of pan Jajuka」がこの小さな村の儀礼音楽を世界的に有名にさせたことは言うまでもありません。

 その他、笛や太鼓の反復音は多くのロック歌手を魅了したり、インドのパーカッショニストまでも影響を受けています。作家であり作曲家でもあったポウル・ボウルズもこの地方の音楽に大変興味を持ったようで、映画「シェルタリング・スカイ」でもジャジューカが効果的に使われています。
 演奏シーンも映画の中で見られ、ポール・ボウルズの音楽や映像へのこだわりが感じられます。
 このようにジャジューカに魅了されたミュージシャンはグナワに並び多く、心魂感じる驚異なパワーが聴くことを超越し、体験する音楽とされています。


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