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アルジェリアのライ
presented by NN

私個人的な意見ですが、マグレブの若者に支持率が高いのは歌謡曲よりも ライ だと思います。
 アルジェリアのオランという街で発祥したライですが、イスラム原理主義の圧力によって本国アルジェリアでは活動しにくくなったライ歌手達がモロッコのウジダ(アルジェリアと国境の町)に拠点を移したことからモロッコにライが浸透したように思います。

 もともとはアルジェリアのベドウィン民謡と都会の音楽が融合したもの、そして宗教や政治的な抑圧に苦しむ若者の性欲、アルコール、女(恋愛)といった欲望を大胆にストレートに歌うものでしたが、20年ほど前から欧米から大量に流入した音楽の影響を受けて、電子楽器シンセサイザーを用いたことから急速に発展しています。
 このライ自体のスタイルというのも非常に曖昧で、様々な音楽との融合といった自由なスタイルです。ラップ、レゲエ、フラメンコ、サルサなどなど…。なので最近のライを聞いてもライか何なのかわからないことのほうが多いですね。

 こういったライ音楽ですが、モロッコのライはアルジェリア(オラン産)の哀愁溢れたイメージはありません。アルジェリアから流入したライにモロッコの民族的要素を充分に取り込んだモロッコ独特の音になっています。
  どちらかと言うとアルジェリアのものよりもリズムも凝っているので音的にはおもしろいと思いますが、ライの場合は歌詞に込められているメッセージがとにかく重要なのです。

 ただ感じることはモロッコよりもむしろマグレブからの移民が多いフランスのほうがよっぽどアルジェリアのライに通じているようです。これは数年前にフランスでライブームが起こったことからもわかります。
  社会から除外され苦しみ続けている移民達にとってライに込められているメッセージは夢や幻想を描く心の拠り所でもあり、一方ではとても現実的なものです。
 まだまだ情勢が不安定なアルジェリアという国を背負い、社会問題を提起するライはフランスを通じて社会性の最も強い音楽として注目されています。


こんなライというジャンルですが、まずモロッコでも一番人気なのは間違いなく Cheb Hasni でしょう。これはマグレブ諸国みんなが声を揃えて言うでしょう。
 オラン出身の彼は1994年にイスラム原理主義者によって暗殺されてしまいましたが、ライ歌手として身の危険を感じつつもオランに残り、歌い続けた歌手の一人です。
  彼を超えるライ歌手は永遠にいないだろうと誰もが信じているほど彼の存在とはすごいのです。
 一体どれくらいの曲を彼が録音しているかは本当のところわからないくらいたくさんあります。
  どん臭いライから驚くほどかっこいいものまでスタイルは様々。すべてライ精神をたっぷりと味わえるハスニの曲は、オラン独特のスタイルとして今もなお衰えることはないのです。
 私個人的に最も好きな現役ライ歌手 Khaled 。彼こそライをワールドミュージックシーンに輩出させた第一人者です。

 アルジェリアのジャズプレイヤーである Safy Boutella がプロデュースしたアルバム「Kuche」は、ライがマグレブの人に留まらずヨーロッパをはじめ、世界的に注目を浴びるきっかけとなったワールドミュージックの代表的作品です。このアルバムによって多くのミュージシャン達は刺激を受け、ライに注目するようになりました。
 この同タイトル曲「Kuche」はモロッコのシャアビ歌手として有名な Mohamed seif の曲にをカバーし電子音や打ち込みを加え、見事に現代のライに姿を変えています。今もなお、斬新な音に聞こえるこの作品がどんなに当時は衝撃的だったことでしょうか…。
 彼の大ヒット曲「DIDI」は、フランスで初めてアラビア語の歌としてトップ50入りしました。。歌詞はどうもわけわからない内容のようですが、ハレド独特の癖の強いコブシと単純なメロディの繰り返し、そしてその単純さをごまかすかのように調子のよいオーケストレーションが受けたようです。

Cheb Hasni

 

Khaled


そして今やアルジェリアを代表するライ歌手 Cheb Mami 。彼はアルジェリアの国民を支え続けている国民楽派と言ってもいいでしょう。
  彼はHasniとは対照的で声は細く、とにかく高いです。世界をまたに駈け、次々に新たなスタイルに挑戦しています。そして今やkhaledを越え最も国際的に活動するライ歌手でしょう。
 スティングと共演した「desert rose」でアメリカ進出も果たしています。テロの影響でアメリカでの公演が延期になったりですが、積極的にライの存在を国際社会に訴えようとがんばっている歌手です。アルバム「meli meli」は様々な音楽との融合に挑戦し、最高な出来と言えます。
 特に「Parisien du Nord」という曲はラップが絡み合うかっこいい曲でヒットしました。日本のFMでもかかっていたこともあります。 ライブでは観客との一体感を持とうと必死になっている姿がありました。あれには感動…。

 途中からは観客が持ってきたアルジェリアの国旗を手に掲げながら、マイクを観客に向け続けるマミ。彼の偉大さは想像をはるかに絶していました。
 そしておまけに Cheb Bilal をご紹介。
本国アルジェリアでカセットの売上げ率が一番高いという彼はモロッコでもかなりの人気です。現在は主にフランスで活動中。ここ数年フランスでビラルの人気は急上昇です。
  いつもスキンヘッドに帽子をかぶり、眼鏡をかけライ歌手らしくないですが、マルセイユに7年も不法滞在していたというつわもの。
 ハレドやハスニのようなコブシとはひと味もふた味も違う渋い声で単調に歌います。音的にそれほどおもしろいと言えませんが、彼の場合、歌詞が重いらしく「ライ・モラル」とも言うらしいです。
  つい最近(2002年4月)アルバム「SIDI SIDI」が発売されました。これまでにないビラルのノリで、なかなかいいアルバムです。ちなみにFNACでないと入手難しいようです。

Cheb
Mami

 

Cheb
Bilal


さて、フランスでかわいがられている Faudel を紹介します。
「ライの王子」と呼ばれるアルジェリアの血を引いたパリ郊外出身の歌手です。甘いフェイスでフランスでは特に女性に大人気だった彼は「123soleils」で大御所ハレドとタハとの共演に成功したものの、実際モロッコでの人気は極めて低いです。(涙)フランス国内では爆発的な人気でしたが、モロッコ人の中には「彼は何を歌っているんだ?何一つ歌っていないじゃないか!」というような厳しい意見もありました。
 ポップライを代表する彼もいろんな音作りにがんばっていますが、やはり第一に歌詞が重要なのでしょう。 幼い頃は毎年バカンスになるとアルジェリアのトレムセンの祖母の家でライを学んでいただけあって、心地よい美声と歌唱力は素晴らしいものです。

 大ヒット曲は「Tellement N’brik」(このようにフランス語とアラビア語をミックスさせたタイトルはライに非常に多いです)は今までにないライの調子で、フォーデル独特のコブシが巧みに効いている聴き映えのある曲です。
  アルバム「Samra」からは「mantes-la-jolie」(フォーデルが生まれ育った街)はかわいらしく、懐かしい気分になれる曲です。


Faudel



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